zillagodのブログ

国内旅日記 ~自転車旅・登山・徒歩旅行~

知床 最も素晴らしい峠

 2004年8月13日。斜里町を発ち、ひたすらオホーツク海沿いを知床方面に向かう。道路は平坦で景色が良く、さらにカラッとした気候が爽やかで、ストレスになるものは一切ない。

世界自然遺産

 知床は2005年に世界自然遺産に登録されている。私が訪れたときはまだ登録される前であった。登録の理由は、海と陸の生態系の循環や希少動物の保護である。

 登録前だからと言って、保護のレベルが低いということはない。登録前から、知床半島では人の立ち入りが制限されており、半島の先端までは許可がないと行けない。オホーツク海側で通常行けるのは、国道334号線から分岐する道道93号線を、10キロメートル程進んだところまでである。ここには、手付かずの原生林に囲まれた知床五湖をはじめとした風光明媚なスポットがある。夏の期間はマイカー規制がされているが、徒歩および自転車には規制はない。

 

知床五湖

 自転車の通行に規制はないのだが、道道93号線は、地図を見る限り相当に登りがきつい。さらにアスファルト舗装されていない砂利道もあるらしい。すでに時刻は午後になっている。無理をせず、ウトロから出ているバスを利用した。

 バスはどんどん高度を上げて行き、30分程度で目的地に着いた。良く締まっていたが、情報通り砂利道もあった。自転車だったらかなりの労力と時間を要したに違いない。

 知床五湖は本当に素晴らしかった。今まで見たことない風景だった。青空と湖面のブルーと原生林の鮮やかなグリーンが見事に調和している。写真に収めないはずないと思うのだが、なぜか残っていない。

 

カムイワッカ湯の滝

 知床五湖の近くに、「カムイワッカ湯の滝」という滝がある。滝の上流に温泉が湧き出ており、それがそのまま滝になっている。この滝を遡上すると、天然の露天温泉があるという。多くの観光客が滝を登っていた。沢登りの経験がなくとも登れてしまうらしい(ただ、後に知ったが、毎年滑落事故が起きているようだ)。スタート地点では草鞋をレンタルしており、これを利用した。歩き始めてすぐに草鞋の効果を実感した。濡れた岩に良くグリップしてくれる。普通の運動靴で登っている人もいたが、足元がおぼつかなく大変そうだった。 

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カムイワッカ湯の滝

自然と人間

 滝を登りきると、オープンスペースの温泉がある。全身浸かっている人は、皆水着を着用している。私は準備していなかったので、足だけ浸かった。

 しばらくここで休憩していると、近くの茂みの奥から歩いて来る人がいた。本格的な登山装備で、聞けば知床半島を徒歩で先端まで踏破したという。話しの内容から察するに、立ち入りの許可を取っているようではなかった。前述の通り、知床半島の奥部は立ち入り禁止が原則だ。波風立てるのも嫌だったので、その人の話しは適当に聞き流していたが、何とも複雑な気分になった。その人もこの知床の素晴らしさに魅せられた一人に違いないからだ。

 しかし、なぜ「人間社会」と「自然」を分離して考えてしまうのだろう。産業革命後、文明が大きく前進し、自然の姿が変わって行きつつあることは事実だ。北海道でも、人間が生活しているところは、ほとんどが開拓によって大きく環境が変えられた場所だ。そういう理屈で、ルールを守らない人がいる。

 カムイワッカ湯の滝で出会った人が正しいとは思わない。だが、何が正しいのかは私には分からない。今の時代だって変化の真っ只中にある。人間の時間スケールではそれを捉えるのは難しい。それを知りたくて、私は旅に出るのかもしれない。

 

知床峠を越えて

 滝を降り、バスでウトロに戻ったときにはすでに日が暮れていた。この日の宿泊は、「しれとこ自然村」のキャンプ場である。到着したときは、暗くて分からなかったが、このキャンプ場は、海に面した丘の上にある。翌朝、テントを出ると、朝日に染まる海面を見下ろす荘厳な光景が拝めた。

 8月14日、いよいよ知床峠に登る。この峠の素晴らしさはガイドブックなどで事前に知っていた。しかも、この日も快晴が続いていた。道路は広く、凹凸もない。高度を上げて行くと、背の高い木々はなくなり、草の広がる山肌が視界を埋める。「雄大」という言葉以外思い付かない。これまで多くの峠を登ったが、間違いなくここが最も素晴らしい。峠の頂上では、すぐ近くに羅臼岳が望め、山肌に写った雲の影がゆっくりと進んで行く。時間の進む速度もゆっくりに感じられた。

 

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知床峠 頂上付近の道路

 ポー川史跡自然公園

 下りは峠の反対側に降りた。一旦オホーツク海沿いを離れる。羅臼町を経て標津に入った。原生林から一転して、湿原の風景に戻る。ポー川という河川が湿原の中をくねくね流れているのだが、この一帯には大規模な古代遺跡がある。かつて本州以南では廃れた縄文文化が、北海道では継続していたことは有名である。この地帯はその「続縄文文化」の他に、北のオホーツク文化も交じっているという。一部復元された竪穴住居などが「ポー川史跡自然公園」として公開されている。そして、その中の一角にキャンプ場がある。このキャンプ場だが、現在は市のホームページには載っていない。なくなってしまったのだろうか。