常念岳
2019年8月13日、昨日の熱中症から回復し、気分は良い。目の前に巨大な常念岳がそびえ立つが、怯むことはなかった。
この日は、常念岳までの長く急な登りから始まる。今いる常念乗越は標高2450メートルで、常念岳山頂は2857メートルである。標高にして約400メートルも続く急登である。しかも、石の多いガレ場で足元が悪く、思うようにペースが上がらない。昨日の教訓もあり、こまめに休憩を挟んだのと、単純に足に疲れがたまっていたためである。さらに、常念小屋から見えていたピークは、山頂ではなかったと知ったときの落胆もあった。登山をしていると、よくあることであるが、このときの落胆ぶりは相当のものだ。
常念岳の山頂は狭い。狭いが大勢の登山者が列を成している。どうやら山頂の碑での記念撮影を待っているらしい。私は別に記念撮影に興味はないので、その列をスルーし、山頂のすぐ下のスペースで腰を下ろした。ここの風景も360°絶景である。昨日からずっと見てきた槍~穂高の峰々も飽きが来ない。それどころか、槍ヶ岳は見る方向を変えるたびに、太くなったり、細くなったりするのが面白かった。東側は雲海が広がるが、切れ目から麓の町が見える。南に目をやると、これから進む縦走路がアップダウンを繰り返しているのが見えた。今日の道のりもきつそうだ。
樹木帯の縦走
常念岳の山頂からしばらくは、石のガレ場を下る。こちら側の斜面も急で、標高を一気に2500メートル付近まで落とす。日差しは強く、汗が噴き出てきて、集中力の維持が難しい。腰を下ろせる箇所では迷わず休憩した。
ガレ場を過ぎると、突然樹木帯に入る。標高2500メートル付近なので、おかしくはないのだが、景色の変化が目まぐるしい。ガスがかかり始めたこともあり、樹木帯の中は涼しかった。名もなき、2592メートルのピークを越えると、本縦走最後のピークである、「蝶槍」が見える。蝶槍は、「蝶ヶ岳」の子分のように思われがちだが、「槍」の名に恥じないなかなかの急登である。
蝶槍の山頂付近からは樹木帯を抜け、再び見晴らしのよい稜線に出る。ガスがかかったり、晴れたりしていた。晴れると日差しが容赦なく照り付け、ガスがかかると心地よい涼風が吹いていた。
下山
蝶槍から縦走路を少し進むと、蝶ヶ岳方面の縦走路と、横尾方面の下山路の分岐にでる。ここから蝶ヶ岳までは、30分ほどのコースタイムである。しかし、元々、蝶ヶ岳に行く予定ではなかったので、分岐を横尾方面に行った。
分岐を横尾方面に下ると、すぐに樹木帯に入る。ここから横尾まで約1000メートルの長く急な下りが始まる。この下り道は変化に乏しく、単調だった。途中、「槍見台」という、槍ヶ岳が見える場所があるのだが、槍には雲がかかっていて見ることは叶わなかった。
標高を下るにつれて、気温と湿度も上がってくる。稜線上では休憩すると汗は早く乾くが、樹木帯では、まとわりつくようになかなか乾かない。その汗の臭気にひかれて、小さい虫も寄ってくる。樹木帯は静かで日差しも弱いが、こういったところは好きになれない。
不意に、目の前の樹木の向こう側に、大きな建物が現れた。ゴールの横尾山荘だった。横尾の標高は1620メートルである。手元の高度計は、1700メートル付近を指していたので、意外だったが、ここで長い下りを終えた。
横尾
横尾山荘前に到着したのは、午後3時半ころであった。すでに多くの登山者や宿泊客でにぎわっていた。梓川の清流が近く、爽やかな空気に包まれた場所だ。また、山中なので無尽蔵にという訳にはいかないが、これまでのテント場よりも多くの水が使える。手拭いを濡らし、身体を拭いた。この日はここでキャンプをして、明日、上高地に向かう。風呂まではもう一晩の辛抱である。