豊浦からの道
2019年4月30日、平成最後の日である。お祭り騒ぎをしているところもあったようだが、旅人にとってはいつもと何ら変わることはない普段通りの朝だった。豊浦からはひたすら噴火湾に沿って南下をする予定だ。函館までは2~3日の行程である。
豊浦を出発すると、アップダウンの激しい海岸線から道は内陸に入る。礼文華峠・静狩峠といった標高200メートル未満のそれほど高くない峠を越えるのだが、結構きつい。しかも、太平洋沿いに出たとあって、気温は上昇する一方であった。
静狩峠からは海岸線沿いに一気に下る。海が見え、そこに向かって下る爽快感はたまらなかった。海岸線に出ると道路は一変し、平坦な道が南へずっと伸びている。これはこれで退屈な道であり、しかもこの日は終始向かい風だった。
長万部のかにめし
長万部に着いたのは午前10時ころだった。この町の名物は何といってもかにめしである。駅に近くの「かにめし本舗かなや」は昭和3年に創業を開始した老舗である。かにめしとは、ご飯に炙ったカニを盛り付けたものである。駅弁として人気を博しており、JRの特急車内へ積み込みも2019年2月まで行っていたが、現在は店頭販売のみとなっている。
少々早い気もしたが、ここで昼食を取ることにした。ここの休憩所がユニークで面白かった。特急列車を模した室内に、実際の列車のシートを並べ、正面のモニターには走行する列車視点での映像が流れている。あたかも特急列車の車内で駅弁を食べているかのようであった。
カニの風味が実に味わい深い。噴火湾は豊かな漁場としても有名であり、カニを始め、サケやイカもよく獲れる。この噴火湾沿いの道には、漁港がいくつもある。無骨な漁船が並んで係留されている光景は風情があり、どこか懐かしい雰囲気が漂っている。
八雲
長万部からも長く平坦な海沿いの道は続く。相変わらずの向かい風で、ゆるい坂を登っているのとそう変わらない。
やがて八雲市に入る。ここは北海道土産の定番である木彫りの雲で有名だ。何でも木彫りの熊の発祥の地であるとか。市内にある郷土資料館には、木彫り熊資料館が併設されており、その歴史や様々な種類の木彫りの熊を見ることができる。
噴火湾パノラマパーク
八雲市街から少し南に行った「噴火湾パノラマパーク」のキャンプ場がこの日の宿である。海岸沿いの国道から丘を登り、見晴らしの良い立地である。
噴火湾という名称は、イギリスの探検家ブロートンがこの地を訪れた際に名付けた。前回述べた、虻田に来航したプロビデンス号の船長である。ブロートンがこの地を訪れた際、ほぼ円形状であること、有珠山や駒ケ岳など活発に活動している火山の多さから、過去に破局的な大噴火がこの地で発生したのだろうと推測し、「これはボルケーノ・ベイだ」と言ったのが由来である。
私はこの話を小学生の頃に知った。ロマンにあふれる内容で妙に説得力があった。実際、この大きさの噴火口を有する火山が噴火したら、とんでもない被害が出ているはずであるが、太古の超巨大火山に思いを馳せたものだ。
なお、この説は現在の地質学では完全否定されている。周辺に噴火による噴出物の堆積が見られないためであり、反論の余地もない。