zillagodのブログ

国内旅日記 ~自転車旅・登山・徒歩旅行~

大雪山~トムラウシ縦走登山① 登山における安全 ~トムラウシ遭難事故を考える~

 2016年8月、北海道最高峰の大雪山旭岳からトムラウシまでを縦走する旅に出た。

登山と私

 当時、2014年から15年にかけて、仕事が立て込んでおり、休みもろくに取れていない状態が続いていた。2016年は、久しぶりに盆休みをフルで取ることができ、学生時代以降、訪れていなかった北海道に行くことにした。行き先は決まっていた。大雪山登山は、かねてより計画していたのである。
 この頃は、自転車での旅よりも、登山に傾倒していた。日帰りでの低山から始まり、宿泊での縦走や雪山と、かなりのめり込んでいた。特に、好きだったのがテント拍での縦走であった。キャンプ用品・水・食料をすべて背負い、山々を歩く。森林限界を越えた見晴らしの良い山稜を歩くのは、非常に爽快だ。山の上では風呂に入れない場合がほとんどで、高山帯といっても、夏は歩けば汗だくになる。危険も多い。しかし、それを差し引いても縦走登山にはやる価値がある。

旭岳温泉 

 8月10日、旭川空港に到着。さわやかな快晴で、9年ぶりの北海道に、期待に胸膨らんでいた。明日から二拍三日の縦走が始まる。この日は、旭川空港からバスに乗り、大雪山麓の旭岳温泉まで移動した。明日はここからロープウェイに乗り、中腹まで高度を稼いで、登山を開始する。ロープウェイの駅周辺には、日帰り温泉がいくつか並び、少し歩けばキャンプ場もある。

 

f:id:zilla_god:20190805235336j:plain

旭岳温泉ロープウェイ駅から見た旭岳

トムラウシ遭難事故に思うこと 

 さて、旭岳からトムラウシまでの縦走をするに当たって、事前に考えておかねばならないことがある。2009年7月、悪天候に見舞われたツアー登山で、多数の犠牲者を出した事故である。この事故で、8人の命が失われた。
 事故の原因分析は専門家によってなされているので、深くは追及しない。概して、ガイドの判断の誤りに原因があるとされている。しかし、その根底には、営業として成立させなければならない、ツアー登山としてのジレンマがあるようだ。悪天候だからといって、中止や計画の変更を行うと、帰りの飛行機を再確保する手間や、ツアー客からの苦情が発生する。この心理が、ガイドの判断を誤らせたというのは容易に想像がつく。
 そして、この事故は、集団であったことも要因の1つだろう。いわゆる「赤信号みんなで渡れば怖くない」の心理である。しかし、轢かれるときはみんなで轢かれるのである。
 ただし、私はこの心理を全否定するつもりはない。なぜなら、自然界の多くの生物はこの心理によって生存競争を生きている。遥かな昔、私達の祖先もそうであった。「赤信号みんなで渡れば怖くない」の心理に陥ってしまうのは、本能と言っても良い。ガイドもツアー客も、その本能を持っている。
 しかし、登山は、人間が娯楽として行う行為である。自然界の生物が、自らの生存をかけるのとは訳が違う。私達は本能を封じて、理性で行動しなければならない。トムラウシの遭難事故では、とかくガイドが責められがちだ。もちろん、ガイドには果たさなければならない責任がある。しかし、ガイドだけが理性的であればよいとも思わない。危険が常に付きまとう登山では、全員に理性が求められると思う。
 
 今回、私はソロで縦走をするわけだが、この問題とは無縁ではない。人気の山岳コースなので周囲に登山客は多いだろう。自分の中に「せっかく北海道まで来たのだから」という心理は、常にあったと思うし、周囲の人の行動を見て、それが間違いだったとしても、本能に勝てる保証はない。
 では、どうすればよいのか。理性的に正しい判断を下すには何が必要なのか。月並みな答えだが、私は「正しい判断を下すには、出来るだけ多くの正しい情報がいる」と考える。今回、旭岳からトムラウシを縦走するにあたり、地形・植生・水場・避難小屋・エスケープルート・残雪状況など、可能な限りの情報を集めた。現在では、インターネットでこれらの情報は簡単に収集ができる。

 ただし、山の神は気まぐれだ。いくら事前準備をしっかりしても、予期せぬ事態はいくらでも起こり得る。絶対安全は、ない。いつか、後悔する日が来るのかも知れない。そうならないために、本能を殺す精神を鍛えなければならない。登山とは、そういうスポーツなのだと思う。

縦走のスタート

 2016年8月11日、最初の「山の日」に、縦走をスタートした。ロープウェイで、姿見駅まで上昇する。「山の日」とあって、北海道警の山岳隊が安全登山を呼び掛けていた。出来るだけの準備はした。体調も天候も良い。これから登る旭岳が、すぐ間近に見える。意気揚々と歩を進めた。

f:id:zilla_god:20190810210405j:plain

姿見駅からの旭岳