zillagodのブログ

国内旅日記 ~自転車旅・登山・徒歩旅行~

納沙布岬 海の向こうの北方領土

納沙布岬までの道

 8月8日朝、昨夜の霧はまだ晴れていなかった。朝日が霧のなかをぼおっと広がっている。やはり広い空間の中にいることは分かるのだが、その風景が見えない。いてもたってもいられなくなり、早朝にキャンプ場を発った。

 根室市根室半島に位置している。この半島は東に20キロメートル程突き出ており、先端には納沙布岬がある。高山帯を除けば、この時期、日本で一番早く日の出が拝める岬だが、日本最東端ではない。東端は岬の向こう側にある北方領土である。ちなみに、冬になると地軸の傾きの関係で、日の出の時刻が一番早くなる地は、千葉県銚子市犬吠埼になる。

 キャンプ場を発った後、 しばらく長い直線の道が続く。 北海道では、このような長い直線の道が非常に多い。道の両側は牧場になっており、牛の群れがすぐ近くを移動している。しかも、道中、群れが道路を横断している光景に出くわした。日本離れした光景に驚くばかりである。

 

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根室市近郊の牧場 柵などはない

納沙布岬座礁

 岬には灯台がある。内部には入れないが、灯台周辺から海を見下ろすことができる。崖下の岩浜には、大きな船が座礁したまま放置されている。その姿は、まるで幽霊船のようである。2003年に座礁したロシアの貨物船らしいのだが、保険に入っておらず、撤去ができなく放置されている。2019年現在も放置されたままで、最近では船体が分裂してしまっているらしい。有害な物質も少なからず海に流出したであろう。少々調べてみたのだが、こうした放置船による海洋汚染は、日本沿岸の至るところであるようだ。本来は船主の責任で撤去せねばならないが、経済的な理由で進まないという。

 

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納沙布岬灯台

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座礁

北方領土問題

 晴れていれば歯舞群島が見えるのだが、霧のためそれは叶わない。この歯舞群島と、その東に位置する色丹島、そして北に位置する国後島択捉島を総称して北方領土と呼ぶ。日本の領土であるが、大戦末期にソ連が侵攻し、今でもロシアが実効支配している。このことは北方領土問題としてロシアとの間で、外交上の課題になっている。日本政府は返還を求めているが、大きな進展はない。今、私はその問題の最前線地域にいる。根室の至るところで、返還を求める碑や看板、ポスターを見かけた。灯台の駐車場には、右翼活動団体のものと思われる黒塗りの街宣車が停まっていた。

 

北方館

 納沙布岬から数百メートル離れたところに「望郷の岬公園」というところがある。その敷地内に、北方領土問題についての歴史的経緯や現在の取り組みについて展示されている「北方館」がある。歴史については、私よりもずっと詳しい方々が書籍などでまとめておられるだろうから、ここではあまり触れない。北方館で印象的だったのは、双方の住民によって、定期的に交流が行われているということだ。これによって、双方の認識違いをなくすという無形の効果を上げており、住民同士においては負の感情はないように思える。北方領土問題については学校で教わるが、こういったことは教えてはくれない(私が覚えていないだけかもしれないが)。

 北方館の見学が終わる頃には、日はすっかり高く昇り、霧も晴れていた。歯舞群島が肉眼で見える。向こうまで、4キロメートル弱しか距離はない。向こう側のロシア人はどう思っているのだろう。私は別にロシア人に対して悪い印象は持っていない。実は、ほとんどの日本人がそうではないだろうか。いわゆる政治的、外交的に難しいことが解決を阻害しているのだとすると、それは大変悲しいことだと思う。