zillagodのブログ

国内旅日記 ~自転車旅・登山・徒歩旅行~

稚内から留萌 オロロンラインで武天老師の修行に励む

亀の甲羅を背負って

 自転車で行くキャンプツーリングは、武天老師の修行と同じようなものである。重い亀の甲羅を背負って鍛えるというやつだ。荷物を積載した自転車の重量はどれくらいになっているのだろう。実は今まで計ったことはない。感覚で25kgくらいだろうか。とにかく重い。

 しかし、人間というのは、たいていのことは長く続けていれば慣れる。根室から始まった北海道の旅は、3週間が経過している。このくらいになると、重い自転車でもあたかも空荷であるかのように扱うことができる。全身の筋力がアップしているのだ。実際に、空荷の自転車に乗るとこれを実感できる。軽すぎて力の加減ができなくなっているのだ。このまま天下一武道会に出場できそうである。

ロングライド

 2004830日、稚内からは日本海沿いをひたすら南下する予定だ。この道はオロロンラインと呼ばれる。本当に何もないことで有名だ。小さな町はいくつかあるが、その間にはコンビニはおろか商店の類はほぼないという。

 私はこの道を、とにかくひたすら何も考えず、ただ走ってみたいという欲求に駆られた。留萌まで約200キロメートルある。ロードバイクでは走ったことのある距離だった。亀の甲羅の修行によって、大幅に筋力はアップしているはずだ。自信はあった。ただ、天気が良くないということだけが気がかりだった。

ノシャップ岬 

 稚内では、200キロメートル走るために食料を買い込んだ。

 午前7時、オロロンラインを走る前にノシャップ岬に立ち寄った。観光客は一人もいない。海面は灰色で空と同じ色をしている。すでに大粒の雨が降り始めている。海は荒れ、風は冷たい。少々ためらったが、意を決して海岸沿いの道に向かった。

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ノシャップ岬

オロロンライン 

 降りしきる雨の中、ひたすらペダルを漕ぐ。何も考えていない。本当に何もない。風力発電の風車の列が途中あるが、それ以外に風景に変化はない。右手には荒れる海が波しぶきを上げており、ひたすらその音が響いている。

 長距離を走る際、重要なのは頑張りすぎないことだ。心を無にして、一定のペースで漕ぐ。それでも、疲労は少しずつだが確実に蓄積していく。途中何度も休憩した。だが、なかば意地になっていて進まなければならないと自分に言い聞かせた。

 だが、よく考えてみれば、このとき亀の甲羅は背負ったままだ。これでは修行の効果は現れない。天下一武道会では予選落ちであろう。

留萌

 留萌に着いたのは、夜9時頃だった。走行距離は200キロメートルを超えていた。町中はひっそりと静まり返っている。それもそのはずで、実はこのとき台風が接近中だったのだ。明日は朝から荒れるらしい。すでに台風特有の生温かい空気が周囲を覆っていた。

 早急に寝床を確保しなければならない。だが、キャンプ場はなかった。あったとしても、台風のなかでテントですごすのは危険だ。身体は疲れ切っており、正常な判断ができていなかったのかもしれない。郊外に屋根付きの歩道橋を見つけた。雪国では良く見掛ける。そこしかないと思った。これから台風がくるというときに、外出する人もそうそういないだろう。明日の早朝出て行けば良い。マットと寝袋だけを持って歩道橋で一夜を明かした。